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欧州ファンダメンタルズ入門|第4回 英国の注目経済指標[松崎美子]

欧州ファンダメンタルズ入門|第4回 英国の注目経済指標[松崎美子]

EU離脱を受け注目指標が変化

 今回は英国を取り上げようと思います。繰り返しになりますが、どの国でも注目指標を探すには、その市場の現状を踏まえることが大切です。英国に関しては、2016年6月に行われた欧州連合(EU)離脱の有無を問う国民投票で「離脱」となったことを受け、注目される指標も若干変わってきました(表①)。

英国の注目経済指標

●国内総生産(GDP)

国内総生産(GDP)チャート

図① 出典:英国統計局

 図①は2019年第2四半期までのGDPチャート(前期比)ですが、欧州や英国では前期比の数字がメインに発表されます。2019年7月末にボリス・ジョンソン政権が誕生し、10月31日に合意なき離脱となるリスクが濃厚になりました。これを嫌気した企業投資や個人消費の低迷が重しとなり、7年ぶりにマイナス成長へ転じています。

●消費者物価指数(CPI)とコア・インフレ

 英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の金融政策の責務は、「物価安定の維持」であり、インフレ・ターゲット制を採用しています。その定義は、「前年比でインフレ上昇率が2%」となっており、財務相が決定権を持っています。BOEのインフレ・ターゲットと欧州中央銀行(ECB)の大きな違いは、上下に±1%のバンドが設定されている点でしょう(図②)。

英中銀インフレターゲット

図② 出典:英国統計局

 物価の推移を見るときには、インフレ率だけでなくコア・インフレにも注目してください。英国のコア・インフレはユーロ圏同様、原油に代表されるエネルギーと食料品を除いたものです。

 国民投票での離脱決定を受け、ポンドは2016年夏以降、実効レートベースで18%急落しました。通貨安はインフレ上昇の引き金となり、国民投票当時は0.5%であったCPIが、その後1年以上かけて3%を越えるレベルまで大きく上昇しました。

 ボリス首相誕生により、合意なき離脱をフルに織り込むためポンドが下落しています。前回同様、時間差をつけてインフレ押し上げ要因となるかもしれず、BOEの金融政策変更のタイミングや方向を変えるリスクもありますので、くれぐれも注意してください。

●賃金上昇率

 日本のFX会社がまとめている経済指標リストには、英国の雇用関連指標の中で最も重要な「賃金上昇率」を載せていないところが多く、いつも残念に思っています。

 この数字が重要な理由は、経済や労働市場に生じた「緩み」を測り、政策金利変更時期の先読みを可能にするからです。緩みについては、今度じっくりと記事にするつもりですが、日本であまり注目されない理由は、失業率が歴史的水準まで下がり完全雇用に近づいた米国や英国以外では、必要とされていないからかもしれません。

 BOEは過去の四半期インフレーション・レポートの中で、緩みの規模を対GDP比で表し、この緩みを使い切るのに必要な時間をきちんと説明していました。どういうことかというと、緩みの規模が小さくなればなるほど完全雇用となるため、少々の賃金上昇でもインフレ圧力がかかり、金利引き上げの必要性が出てくるということです。そのタイミングを先読みして、マーケットではポンド買いが出ていた時期もありました。

 ちなみに、この緩みを英国では「Spare Capacity」、米国では「Slack」とも呼んでいます。

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●購買担当者景気指数(PMI)

 先月号でもご紹介したPMI。同じPMIでもユーロ圏と英国とでは、相違点がいくつかあります。一つは、発表のタイミングです。ユーロ圏は、速報値と改定値の2種類発表されますが、英国は1回だけです。

 もう一つは、ユーロ圏では製造業・サービス業・総合PMIが発表されるのに対し、英国では製造業・サービス業に建築業PMIが加わります。住宅市場は英国経済のアキレス腱です。日本に住んでいるとピンと来ないでしょうが、英国人のDNAには、「自分の家を持つ」ということが染み付いています。これは1980年代のサッチャー政権で根付いたもので、英国人は大学を卒業して4~5年働くと、最初の物件購入を検討します。そのため、建築業PMIの重要度が、他国と比較して段違いに高いのが特徴かもしれません。

それ以外の経済指標

 今までご紹介した以外の経済指標で、私が注目しているのは以下の通りです。

①小売売上高

 英国経済の約75%が個人消費を含むサービス業です。その健全性を占うには、小売売上高が最適です。英国では売上高の内訳として、①全体②ガソリンなどのエネルギー商品③衣料品などの非食品④食料品⑤オンラインセールスに代表される小売業者以外での売上-のカテゴリーに分かれています。

②住宅ローン申請件数

 為替を動かす要因ではありませんが、やはり英国経済を大きく動かす住宅市場を測る物差しとして、建築業PMIと並び、住宅ローン申請件数を私は必ずチェックしています。

※この記事は、FX攻略.com2019年11月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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「欧州ファンダメンタルズ入門」連載記事まとめはこちら

ABOUT ME
松崎美子
まつざき・よしこ。スイス銀行東京支店でトレーダー人生をスタート。1988年渡英、1989年よりバークレイズ銀行ロンドン本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年に同じくロンドン・シティにある米メリルリンチ投資銀行に転職。その後2000年に退職。現在はFX取引に加え、日本の個人投資家向けにブログやセミナー、YouTubeを通じて欧州直送の情報を発信。著書に『松崎美子のロンドンFX』『ずっと稼げるロンドンFX』(共に自由国民社)。2018年より「ファンダメンタルズ・カレッジ」を運営。DMMで「FXの流儀」のオンラインサロンも始めた。 スクール:ファンダメンタルズ・カレッジ オンラインサロン:FXの流儀 ~ファンダ・テクニカルを語ろう~
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