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FX力を鍛える有名人コラム

寧静致遠(ねいせいちえん)[森晃]

 7月に、米国で「コロナパーティー」に参加した30代の男性が亡くなったことが全米ニュースで報道された。このコロナパーティーとは、新型コロナウイルスに感染した人物が「ウイルスは本当に存在するのか?」「ヒトからヒトに感染するのは事実か?」などを確かめるために開いたパーティーである。そして、このパーティーに参加した男性が、「僕は間違っていた。デマだと思っていたんだ。でも、それは本当だった」といい残し他界した。本当にばかげた出来事である。「本当に、いい加減にしろ!」である。

 さて、「寧静致遠(ねいせいちえん)」という四字熟語をご存じであろうか? この語源は、『三国志』に登場する軍師・諸葛孔明が戦地で倒れたとき、幼い息子に残した言葉である。その意味は、「君子は常に心静かな環境で日々鍛錬を重ねなければ、遠大な事業を成し遂げることはできない」。こういうときだからこそ、遠くの目的に到達するまで誠実にコツコツ努力をして、頑張り続けることが肝要である。

景気回復の進捗は?

 7月現在、米国の足元の実体経済の回復スピードは、春先に多くのエコノミストが予想したものよりも良い結果となった。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)による大規模な金融政策と「Lending Facility Program」の実施が悲観的に予想された経済の落ち込みを和らげたからである。

 しかしながら、手放しには喜べない状況である。なぜなら、米国経済が元の状態に回復するまでにはある程度時間がかかるものと筆者は考えているからである(今回の良好な結果は、失業給付をすることで労働市場への打撃を緩和したことによるものである)。

 もちろん、今後も金融政策と財政政策のコンビネーションにより、大幅な米国経済の落ち込みは避けられるものと思われる。しかしながら、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が広く普及するのにどの程度時間がかかるか予測することができないこと、第2波、第3波の感染症の広がりについても予測することが困難なことを考慮すると、現段階では前途洋々ではない。

 次に、世界経済の足元の実体経済の回復スピードに目を向けたい。国際通貨基金(IMF)は、4月に2020年の世界経済の成長を-3%としたが、6月に-4.9%と下方修正した(図①)。この予想を変更した理由は、新型コロナウイルスによるパンデミックが、2020年前半の経済活動に予想以上のマイナス影響を及ぼしたからである。また、ロックダウンの長期化により感染率の抑制に苦しんでいる諸国の経済が深刻な影響を受けたからである。

IMFより

 IMFが懸念しているのは、1990年代以降、大幅に進展してきた世界的な貧困削減の実現が危うくなることである。新型コロナウイルスの影響で貧困層が増えることは、消費が活性化して多くの人々が幸せになるという経済成長メカニズムに打撃を与えるからである。もちろん、この問題は発展途上国に限った話ではない。先進国でも貧富の格差拡大は大きな問題である。加えて、新型コロナウイルスによって経済格差が引き起こされ、貧困問題がさらに肥大化する恐れもある。これは、本当に悩ましい問題である。

 だからこそ、分断化した世界ではなく、より結びつきを強くした世界が必要である。また、この問題を早期に解決するためにコミュニティ単位でも知恵を出し合う必要があると筆者は考えている。

 さて、読者の皆さまが気になる金融市場の環境であるが、IMFは金融市場のセンチメントの回復度合いについて、経済回復の見通しと乖離していると指摘している。投資家の皆さまも、その指摘に耳を傾けるべきであろう。

「かたち」はどうなるか?

 エコノミストは、経済の回復パターンをアルファベットのかたちになぞらえて表現する。

 一つ目は、V字である。この見通しは、経済が落ち込んだ後、数か月後に再び急速に回復する経済現象である。例えば、タイ・バーツの暴落で起きたアジア通貨危機(1997年)で世界経済は一気に落ち込んだが、IMFの融資により、すぐに回復した。

 二つ目は、U字である。この見通しは、長期にわたり経済が低迷し、その後ゆっくりと回復する経済現象である。三つ目は、L字である。この見通しは、経済がどん底まで落ち込んだ後、成長が何年間も停滞する経済現象である。例えば、「失われた10年」「失われた20年」といわれるバブル後の日本経済である。四つ目は、W字である。この見通しは、経済が回復する前に再び悪化する経済現象である。

 さて、今後の世界経済の見通しはどうか。スティーブン・ローチ氏(イェール大学上席研究員、元モルガン・スタンレー・アジア会長)は、「コロナ後の世界経済はW字の成長を呈し、回復の流れは紆余曲折を経ることになるかもしれない」と予想している。

為替市場について

 協調性が欠け、リーダーがいないG20であるが、新型コロナウイルスによる金融市場の流動性不足という問題を主要中央銀行は迅速に解決した。FRBと主要中央銀行による「ドル・スワップライン」である。この政策は、他国の中央銀行にも拡張された。そして、ドルの流動性供給がより強化されることで、民間銀行によるドルの借入コストの上昇を抑制し、為替の安定化に寄与した。

 実際、IMFのレポートが指摘するように、ドルは1月から4月上旬にかけて実質実効レートで8%以上も上昇したが、6月中旬には4%近く下落した。また、4月以前の数か月間で大幅に下落していた通貨にも上昇が見られる。先進国通貨では、豪ドルやノルウェークローネである。新興国通貨では、インドネシアルピアやメキシコペソ、ロシアルーブル、南アフリカランドなどである。 

 2007年、2008年の世界金融危機から、金融政策当局者は多くのことを学んだ。以前よりも迅速に、当局は金融安定化のためにできることは何でもした。そのため、投資家の皆さまは、むやみに将来に対して疑心暗鬼になる必要はないであろう。しかし、今回の危機は「パブリックヘルス」が問題であり、それが解決されるまでは経済回復の過程に一山二谷あることを忘れてはいけない。

 最後に、筆者が知る限り、日本の当局者(財務省、金融庁、日本銀行)も他国の当局者同様、寧静致遠をモットーに必死に汗を流して頑張っている。フレー、フレーである。

※この記事は、FX攻略.com2020年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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