市場は悲観から楽観に
2020年3月の市場は非常に高いボラティリティで、大きな変動となりました。ドル円は月間では0.46%の下落(オープンからクローズまで)でしたが、高値と安値では9.75%の変動でした。
対ドルで一番変動の大きかった(高値~安値)通貨は豪ドルの18%で、その他ではNZドル15.67%、ポンド13.95%などが大きく変動。対円では豪ドルが16.54%、NZドルが12.69%、ポンドが10.94%の変動幅となりました。意外に動いていないユーロドルは7.8%で、ユーロ円は4.21%。ドルの強さを示すドルインデックスは0.85%の上昇、変動幅は8.5%です。
各国で新型コロナウイルスの感染拡大が進み、そこからロックダウンなどの経済活動の停滞が始まりました。経済が大きく減速したことは、3月の経済指標で確認できます。経済が減速することは当然予想されており、先進国の中央銀行のほとんどが0%近辺まで金利を引き下げた上で強力なQE(資産買い入れ)と短期金融市場での大量の資金供給を行いました。そのことに関しては前号までに書きましたので、確認していただければと思います。
金融市場は実体経済より先に将来を織り込みますから、これらの強力な金融政策と財政政策によって市場は急速に悲嘆から楽観に傾きました。株価は急落から反発、ドルは急騰から急落、円高から円安と大きく変動しました。
経済指標で重要なのは速報性があるかどうか
3月までに発表された経済指標は1~2月のデーターを基にしており、まだ世界経済に悪い影響が出る前の数字でした。それでも、2月以降の経済指標がかなり悪化するであろうことは既に予想されていました。
経済指標といえば、国内総生産(GDP)の成長率が思い浮かびます。最終的に、その国の経済の規模はGDPで決まりますが、この指標の欠点は数字が確定するまでに長い時間がかかるということです。
例えば、米国のGDPは速報値、暫定値、確定値と3回公表されます。速報値は四半期が終了した翌月末、暫定値は四半期が終了した翌々月末、確定値は四半期が終了した翌々々月末となっています。そうすると1~3月期のGDPの発表は4月末、5月末、6月末となります。つまり四半期の開始月から数えると、速報値でも4か月後、確定値に至っては半年後の発表ということです。発表が4~5月以降になってしまうと、今のように状況が激しく変化するような場合は、さすがに経済指標としての有効性が薄れてしまいます。
GDPは市場が注目する指標で、通常の景気拡大や減速といったトレンドを判断する上では非常に重要です。しかし、ロックダウンによって経済がストップしている状況、またロックダウンがいつ終わるかによって経済の動きが大きく変わる状況においては、マーケットの予想に利用するのにあまり適切ではないかもしれません。
いま注目されるのは労働市場に関する統計
では、現状で注目されている指標はどのようなものかというと、結果が早く発表される雇用に絡む統計です。中でも大きな注目を集めているのが、米国の新規失業保険申請件数です(図①)。この指標は、米国の労働省から毎週木曜日の日本時間21時30分(冬時間は22時30分)に発表されます。
出典:ブルームバーグHP
この指標のメリットは、毎週発表されるという速報性の高さにあります。現在のように米国でロックダウンが行われ失業者が増加する中では、その数は非常に注目されます。また、失業保険の申請数という実際の数字であることから、比較的信頼度が高い指標とみなされています。
現在のように経済減速の動きが早く、誰にとっても初めてのケースでは、1か月や3か月前の経済状況を表す通常の指標は役に立ちませんが、その点、毎週発表される新規失業保険申請件数は便利な指標になります。
失業保険申請数の増加は、雇用者数の減少を通じて失業率を押し上げ、米国の雇用状況を悪化させます。雇用悪化の最初の兆候は、失業保険の申請件数に表れるということです。
今回は新型コロナウイルス感染拡大阻止のため、経済を強制的に活動停止にしたことにより景気の減速懸念が強まりましたが、平時においても新規失業保険申請件数から景気減速を確認することが可能です。
もう少し細かい点まで観察すると、米国にはJOLTS(Job Openings and Labor Turnover Survey)という指標があります。これは求人労働異動調査と訳し、求人数や離職率といった求人サイドに立った指標です。求人数ですから、新規失業保険申請件数とは逆に企業サイドから見た好況・不況を占うことができます。
昨年の春ごろは750~760万件の求人がありましたが、昨年暮れには700~720万件、今年の1~2月には650~680万件と既に減少傾向にありました。雇用というのは、経済活動の好不況の中では比較的遅れて結果が表れます。例えば、景気が良くなって人手が足りなくなると求人数や雇用者数が増加し、失業率は遅れて低下します。そして、人が解雇されるのも景気が悪化して人手が余るようになってからです。しかし、今回は経済活動の停止で雇用の方が先に反応する珍しいケースとなりました。それはニューヨークなどでロックダウンが行われたからです。
日本と米国では、雇用と解雇に関する制度や状況が違うので、米国の失業保険申請数の増加に違和感を覚えるかもしれません。米国では週給制で働いている労働者がたくさんいるため、米雇用統計では週給の指標も発表されます。
今回大きな影響を受けた飲食業などの労働者たちは、失業保険で食いつないでいくしかないので、失業保険を申請することになります。4月21日に米国のウォルト・ディズニー社は一部の従業員の一時解雇を決めました。対象者は10万人と報道されています。医療給付にかかる費用は負担するらしいですが、これも「再開までは失業保険で食いつないでください」ということです。
2種類の雇用統計
マーケットが求める指標として、速報性は重要な要素です。数か月も遅れて発表される指標の場合、そのときには経済の状況がかなり変化している可能性があるからです。前述の通り、GDPに関してはかなり遅れた指標なのですが、多くの指標は1か月ごとに結果が分かります。
これらの他にも雇用系の統計としては、ADP雇用統計と本家本元の米労働省が発表する雇用統計があります。ADP雇用統計は、ADP(Auto matic Data Processing)社が米労働省の雇用統計の2日前に前月の雇用者数の増減を前月比で発表するもので、本家の雇用統計の前哨戦として注目されます。
ADP社は給与計算アウトソーシング企業で、全米40万社の給与計算を代行し、給与支払い台帳から雇用者数の増減を発表します。とはいえ、本家の雇用統計とのギャップはあります。最近は相関性が高まっていますが、それでも誤差はあるので参考程度にとどめておいた方が良いでしょう。
一方、本家本元の米雇用統計は原則として毎月第1金曜日に発表されます。注目されるのは、非農業部門雇用者数(図②)と失業率です。非農業部門雇用者数は事業所の給与支払い台帳を基に集計された就業者の数で、経営者や自営業者はカウントされません。そして、失業率は6万世帯に聞き取り調査を行い集計します。
出典:セントルイス連銀HP
3月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が70.1万人減少(2月は27.3万人増加)、失業率が4.4%(2月は3.5%)となりました。2009年のリーマンショックのときは、米国の雇用者数は1億3840万人から1億2962万人に減少し、880万人ほどの雇用が消失。2001年のITバブル崩壊のときは1億3278万人から1億3015万人に減少し、263万人の職が失われました。今回、直前では1億5248万人の雇用がありましたが、この数字がどこまで減少するかが注目材料になります。
失業率は10%から15%の上昇が予想されます。そうなると1500万人から2000万人の失業者が出る可能性があり、過去最大の失業者増加となる可能性があります。市場は既に失業率の10%超と雇用者数の大幅な減少を見込んでいます。それがどのくらいのスピードで増減するのか、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和とトランプ政権の財政出動でどのくらい失業者の数を抑えられるのかが注目されます。
今後は新規失業保険申請件数の増加速度、そして本家本元の米雇用統計における非農業部門雇用者数と失業率の数字が非常に注目される指標になってくるでしょう。
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今後注目したい米国の経済指標
◦新規失業保険申請件数
◦求人労働異動調査(JOLTS)
◦ADP雇用統計(ADP社発表)
◦雇用統計(米労働省発表)
※この記事は、FX攻略.com2020年7月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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