FXと人|Vol.1 蜂屋すばるさん

FXと人|Vol.1 蜂屋すばるさん

ファンダメンタルズやテクニカルといった各種分析や、自動売買、システムトレードといった運用方法に目を奪われがちですが、FXの本質は人間と人間の関わり合いで生まれる価格推移です。分析や運用方法が相場を動かすことは決してありません。どんな相場も、動かすのは無数の人です。この企画では、徹底してFXにおける「人」にクローズアップします。第1回ゲストは、平行チャネルトレーダーとして人気を博している蜂屋すばるさん。あえて技法以外について、お話をうかがいました。

●聞き手:鹿内武蔵(FXライター)

——ツイッター、YouTube、ブログで自身の手法や相場観を惜しみなく情報発信するのには何か理由があるのでしょうか。

 最大の理由は、自分にプレッシャーを与えるためです。人間はどうしても自分を甘やかしてしまう生き物です。FXトレーダーは常に自分との戦いなので、甘やかした時点で負けです。機関投資家の方であれば、オフィスに出勤すれば上司や同僚がいて、行動が自動で記録され、日報を提出し、常に周りの目がある状態ですが、個人トレーダーの場合そうではありません。誰かに監視されていたり、矯正してもらえる機会がないんですよね。その対策を私なりに考えた結果、「自分の手法や相場観をWebで公開し、誰かに見られる状態にすること」が一番合理的という結論に至りました。誰かに見られている状態、というだけで自分にプレッシャーがかかりますし、変わった行動や甘い考えはできなくなります。自分を甘やかしてしまいそうなとき、「いつも閲覧してくれているフォロワーやブログ読者の方々に、この行動をちゃんと説明できるのか?」と自問自答するようになりました。

 おそらく私にとって、YouTubeの視聴者さんやツイッターのフォロワーさんはメンター的な存在なんだと思います。特定の個人ではないけれど、皆さんの存在があるから「誠実にFXと向き合う自分でいよう」と思うことができているし、精神が成熟してきている感覚があります。

 私が公開する情報を活用してくださる人たちがいらっしゃる一方で、私自身も皆さんのことをプレッシャーの源として、かつメンターとして利用させてもらっているんです。おかげさまでツイッターのフォロワーもYouTubeのチャンネル登録者数も増えてきました。多くの方から目標とされていることに喜びを感じつつ、やはりプレッシャーは大きいです。

 自分に重圧をかけながらさまざまな情報を出しているのは自分を甘やかさないためだけでなく、成長するためでもあります。これが最高の自分だ、と決めてしまった瞬間に成長は止まってしまうので、「伸びしろはまだまだ無限にある」と思いながら動画やブログの更新を続けています。

——自分にプレッシャーをかける以外にも情報発信をする理由はありますか?

 トレードだけの日々がどうにも退屈で、社会的価値を感じられていなかったことも理由の一つです。専業トレーダーを続けていると、ある程度の段階に達したところから退屈になってしまうんです。私の場合はトレードが安定して、勝率が予想できるようになったころがそのタイミングでした。

 FXを始めたばかりの時期は、自分がエントリーした後どんな展開になるか分からない面白さがありました。いわゆるギャンブル要素ですよね。でも、FXトレーダーが目指すべきなのはギャンブル要素が排除された状態です。収益が関わってきますから安定感がある方が絶対に良いので。安定感を出すために勝率やプロフィットファクターを過去検証で算出し続けていくと、「今ここで自分がエントリーすれば何割の確率で勝って、いくら増えるか」というのが分かってきます。そうして安定感を生み出した結果、面白さを失ってしまうんですよね。安定感と面白さは相反するものなので仕方のないことですが…。

 もちろん、上がるか下がるかを予想する面白さを追求するトレードスタイルでも良いと思います。ただ私は、安定感を追究した方が合理的だと考え、こちらを選びました。

 それと、そもそも私の場合、ゆったりしたスタイルでやっているので、結構すきま時間が多いんですよね。「空いている時間を有効活用して、何か自分にとって刺激になることに取り組みたい」と考えていたんです。「マズローの欲求5段階説」の話になってしまいますが、ある程度トレードの結果が安定して衣食住が担保できるくらいの状態までいくと、「生理的欲求」「安全の欲求」まで満たされているので、今度は「社会的欲求」が生まれるわけです。

 正直、私自身、為替の専業トレーダーは社会的価値を何も生み出していないと思っています。周りの人は「そんなことないですよ」って気を遣っていってくれますけど。「通貨の流動性に関わってるじゃないですか」とか。でも私からしたら、通貨を動かしている実感はないし、関係のないことなんですよね。なので、もっと直接的に自分の行動で誰かに喜んでもらいたい、社会的価値を見いだしたい、という段階に行き着いたんです。

 それと、人生観の話に近いのですが、私が死ぬ間際「素晴らしい人生だった」といえるためには、何をたくさん集めたかよりも、たくさんの人たちに良い影響を与えることが大事だと考えています。広く社会的価値を提供し、自分の人生をより充実させるために情報発信しているという側面もあると思います。

——現在行っているような発信の活動はいつまで続ける予定ですか?

 相場についての発信活動に、何のストレスも感じなくなったら辞め時だと思います。ストレスがなくなってしまったら、やる意味もなくなってしまうので。

 正直、今、嫌すぎてしょうがないんですよ。相場観を公開したり動画を公開したり…。本来ならやらなくても生活できることだし、私にとってプレッシャーでもストレスでもあるんですが、人間として一つ上にレベルアップするためにも必要な圧力だと思っています。

 ツイッターのフォロワーやYouTubeのチャンネル登録者が増えているうちは「慣れ」を感じずに続けられています。登録者数をチェックして「また視聴する人が増えている、やらなきゃ」と思えるのは良い刺激になっています。投稿を待ってくれている人がいることは私にとって喜びでもありストレスでもあります。

 現段階では、毎日しんどいと思いながら更新していますので、多分まだまだ続けると思います。私自身が情報発信しながら勉強させてもらう場にもなっているのでありがたいです。

 それと、私は最強のトレーダーではないし、世の中のことを全て分かっているタイプのトレーダーでもなければ、金融業界で働いた経験もありません。でも、こうして顔を出してお話をしているトレーダーの中では一番素直にやっていると自分で思っています。うそをついたり、おかしなことをしたらすぐバレてしまう世の中、とにかく誠実に、素直に情報発信をしています。

 これからFXの専業トレーダーになろうとしている方も、安定感を重視していくと必ず退屈になる日々が来るので、いつかブログを始めたくなると思います。そのときが来たら、困っているFX初心者の方のために、誠実に正直に情報発信をしてあげてほしいですね。

——FXを始めたばかりのころと現在を比較して、ご自身に変化はありましたか?

「自分」という性格や人格は、FXで稼げるようになった程度では大きく変わらない、というのが正直なところです。自分が今まで持っていた要素に、FX要素がただ追加されただけの状態だと思っています。

 私はけっこう面倒くさがり屋で、朝は起きずにずっと寝ていたいタイプなんですよね。そういう弱点はFXでトレード成績が安定してきても何も変わっていません。でも、FXに関わるので、一応ちゃんと朝は起きています、面倒だとは思っていても。FXでは過去検証をやらないよりやった方が絶対良いって分かっていても、なんだか面倒くさいとか、相場が動いていて今のタイミングで真剣に取り組めば勝てるかも、っていうときでも趣味のゲームに没頭していたいとか、そういう面倒くさがり屋な自分自身の気持ちは変わらないんですよ。

 でも、FXの技術を身につけていった結果「今ゲームをやめてトレードに集中すればどのくらい勝てるか」という期待値の計算ができるようになってきたんです。朝起きずにずっと寝ていたい、という場面も同じで、「今、早起きすればFXでどんなメリットが生じるか」が計算できるから、パッと起きるようになりました。FXの知識や技術を習得した結果、生活面での自分の弱いところを奮い立たせることができるように変わったんです。

 そもそも人間の性格や人格はいろんなことの影響を受けて形成されているから、そう簡単には変わらないと思います。例えば性格の半分が遺伝で決まっていて、もう半分はこれまでの人生経験で構成されているとしたら、FXを数年やった程度で人間そこまで変わらないですよね。

 なので、FXのためにガラッと生活スタイルを変えたり、人格を変えようとするのではなく、FXと自分の今までの生活が調和できるようにスタイルを組み立てていくのが良いかもしれません。ゲームが好きで我慢できないなら、ゲームをする時間も確保しつつFXにも打ち込めるようなトレードスタイルにする、とか。

——自分を無理に変えようとする必要はないんですね。

 FXをやっている方って、そもそも学生時代成績優秀で、社会に出てからも仕事ができるような優秀な方がほとんどだと思うんです。意識が高くて賢い方々が、さらに収入を増やすために一歩を踏み出したパターンが多い印象があります。だからこそ、これまでの人生、前向きにいろいろなことに取り組んで成功してきた人が、学校の勉強とは全く別の難しさがあるFXで挫折すると自己肯定感が相当下がると思うんです。

 でもそこで「自分はダメな人間なんだ」とは考えないでほしいし、劣等感は感じなくて良いと思います。私が面倒くさがりな性格のままでもFXと向き合えているように、自分の弱い部分は弱いままでも勝てるんだ、ということはお伝えしておきたいですね。

 それと、FXにおいてメンタルは非常に大事だと思います。メンタルの強さは、成功体験を積みながら、正しいFX技術を身につけ、ピンチの乗り越え方を学ぶ、といった総合力によって形成されるものです。FXの世界で有名な人のツイッターを見ているだけで身につくものではないことは確かです。

 メンタル面を強くするために一番良い方法は、技術、検証、記録の積み重ねだと私は考えています。「自分はメンタルが強くないから、FXのような勝負には向いていない」と考えている人もいると思いますが、性格自体を変える必要はありません。メンタルが弱くても、弱いなりに技術を習得していくことで実力がつき、リスクリワードも変わってくるのではないでしょうか。

 過去検証やノートの記録は多くの人が面倒に感じていますし、実行するのは簡単ではありません。目先の利益がすぐ手に入るわけではないので、早くお金を稼ぎたい、エントリーしたい、と焦る気持ちも分かります。しかし、私はそういう面倒なことや、他の人がやりたがらないことにこそ価値があると考えています。

——蜂屋さん自身がFX初心者だったころの自分に伝えたいことはありますか。

 二つあります。一つ目は、「お前が想像していることは全て間違っているぞ」ということです。当時の私は「こうすれば勝てる」「こうすると負ける」だとか、「ニュースでこういっているからチャートはこう捉えるべき」だとか、FXについて考えていることは一つ残らず間違っているぞ、と。

 そして二つ目は「でもそれでいいんだよ」ということですね。「この人のいうとおりにすれば勝てる」とか「こうしたら負ける」とか、初心者のころに考えていたことは全て間違ってはいましたが、それらを痛みとして経験して、間違いを間違いだと自覚できたから今の自分に成長することができたと思うんです。間違ったことをして負けても、検証や記録を繰り返しながらそれを糧にしてきたからこそ、正しく技術を身につけることができました。

 私には「師匠」のような存在は特にいないのですが、強いていうなら過去の自分が私にとっての師匠です。自分が今まで失敗したことも成功したことも、良いと思ったことも悪いと思ったことも、全て今の私につながっています。

※この記事は、FX攻略.com2020年9月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

蜂屋すばるの写真

蜂屋すばる(はちや・すばる)

金融トレーダー兼アナリスト。兼業投資家や、初心者に向けて超シンプル&ゆったり手法を発信中。平行チャネルなど、相場にラインを引いてシンプルに分析するスタイルにファンが多い。

公式サイト:凡人投資家2.0|専業金融トレーダー蜂屋すばるのブログ

Twitter:https://twitter.com/m45fx

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCSHFi0CsLjTA6R8rLMBJ0BQ