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米国労働市場の現状を深く考えてみる[雨夜恒一郎]

FX攻略.com ズバリ!今週の為替相場動向 2017年6月5日号

先週のドル円相場

先週のドル円相場は、米国5月の雇用統計が予想を下回ったことを受けて110.33円まで下落し、約2週間ぶりの安値を付けた。米国雇用統計では、失業率が4.3%と16年ぶりの低水準となったものの、非農業部門雇用者数が+13.8万人と予想の+18.2万人を大きく下回り、3月・4月月分も合計6.6万人下方修正された。

非農業部門雇用者数と失業率は予想を下回る

非農業部門雇用者数の増加幅は一般に好悪の分岐とされる20万人を3ヶ月連続で下回ったが、これは景気減速ではなく、労働市場の逼迫(品薄)のせいと考えるべきだろう。失業率はFRBが完全雇用と見る4.7%を大きく下回っており、もはや就業可能な失業者がほとんどいない状態と言ってよい。イエレンFRB議長は完全雇用下での就業者の伸びは7.5万~12.5万人が適正と見ており、雇用の伸び鈍化が6月FOMCでの利上げを踏みとどまらせる材料とはならないはずだ。CMEが算出する6月の利上げ確率は94.6%に達しており、むしろ前日の90%から上昇している。

米国の労働市場は完全雇用状態に

一方、市場がインフレの先行指標として注目する平均時給の伸びは、前年比+2.5%(予想+2.6%)と振るわなかった。これは給与水準が低い非正規雇用(パートタイマー)が雇用の多くを占めているためだ。また全失業者数における長期失業者(27週間以上)の割合は前回の22.6%から24.0%に上昇し、労働参加率は62.9%から62.7%に低下した。これらの指標は金融危機前(2004年~2007年)の平均19.1%、66.1%をいまだ回復していない。一度失業するとなかなかフルタイムの職が見つからず、やむなくパートタイム労働に甘んじるか、就業をあきらめて労働市場から退出せざるを得ないというのが米国労働市場の一面なのだ。

米国の労働市場は確かに完全雇用状態にあり、量的なスラック(弛み)はほとんど残っていない。しかしこうした質的なスラックが解消されない限り、賃金の大幅な上昇は見込めないだろう。しかも正規雇用から非正規雇用へのシフトは、リーマンショックを教訓とした企業の人材戦略の不可逆的変化である可能性が高い。質的なスラックはもはや容易には解消できない構造的なものなのかもしれない。

「FRBの利上げペース減速」を軸にして考えると…

インフレ目標の2%を達成するには3%の賃金上昇が必要とされるが、逆に言えば賃金上昇が3%を下回っている限り、FRBは利上げを急ぐ必要がない。既定路線となっている6月利上げは実施するが、その次はいつになるかわからないということだ。このところ米国債利回りが低下し、ドルインデックスが下げ足を早めているのも、そのあたりを嗅ぎ取ってのことなのだろう。一方利上げの先送りは景気後退リスクを低下させるので、株式市場にとっては好材料だ。世界的に株式市場が高値を更新しているのも頷ける。

「FRBの利上げペース減速」を軸にして相場観を組み立てれば、「債券高・ドル安・株高」の組み合わせが最も蓋然性の高いシナリオということになる。ドル円相場に関しては今週も弱気スタンスを維持する。

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