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パラジウムが歴史的高値圏で推移[佐藤りゅうじ]

現在も供給不足が深刻

 2019年3月号で、16年ぶりにパラジウムがゴールドの価格を上抜いたことをお伝えしました。その際、パラジウムは1300ドル台に乗せる可能性は十分にあるとしました。しかし、その後のパラジウムの上昇は予想をはるかに上回り、2019年10月17日には1782ドルまで上昇しています(チャート①参照)。そして、プラチナとの価格差は倍まで膨らんでいます。今回は、上昇を続けるパラジウムの今後を占っていきましょう。

パラジウムのチャート

 最初に、パラジウムについて簡単に説明をしたいと思います。パラジウムは、金、銀、プラチナと同様に貴金属と呼ばれ、その主な用途はガソリン車の自動車触媒です(ディーゼル車はプラチナを主な触媒とします)。調査会社のGFMSのデータ(表①参照)によると2018年は総需要334.7トンに対し、自動車触媒需要は268.1トンと総需要の約80%にあたります。その他には電子材料、歯科用材、宝飾品用材などの用途に使われます。

世界のパラジウムの需要と供給

 一方、主産地は同データによると、2018年は南アフリカとロシアの二国で鉱山生産の約77%を占め、これに北米を加えると総生産の9割を超えます。毎年210トン前後の鉱山生産がありますが、パラジウムは銀やプラチナを掘った際の副産物の側面が強く、鉱山生産は急激には増加しません。これに使用済みの自動車触媒を回収したものと中古宝飾品を加えた数値が、パラジウムの総供給量となります。2018年の総供給は281.9トンでした。ここから総需要の334.7トンを引くとマイナス52.8トン、つまり52.8トンの供給不足でした。パラジウムの供給不足は2010年から続いており、2019年も約57.3万トンの供給不足が見込まれています。また、GFMSは2020年まで毎年約32万トン強の供給不足が発生すると予想しています。今のパラジウムの高騰も、需給面に裏打ちされた結果であるといえます。

ガソリン車需要の増加

 パラジウムがなぜこれほどに供給不足が続いているのかですが、需要面からみると2017年までは好調な自動車生産に支えられました。同年の四輪車生産台数は9729.9万台と8年連続で過去最高を更新しました。また、パラジウムは主にガソリン車の触媒に使われますが、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンに比べ割安なため、途上国などでは、最初に普及を始めます。加えて、2015年に発覚した独フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン排ガス規制に対する不正問題もガソリン車の増産に拍車を掛けました。同問題が発生する前年の2014年の欧州自動車市場では半分以上がディーゼル車でしたが、今は3分の1以下に落ち込んでいます。これらのこともガソリン車の需要を喚起し、パラジウム需要につながりました。

環境規制が後押し

 しかし、2018年になると状況は変化します。米中貿易摩擦の激化、中国景気の減速、同国の優遇税制の廃止、欧州景気の減速などから、四輪車生産台数は前年を下回る9581.3万台となりました。これを受け、自動車で使用する銅やアルミの価格は、2018年の高値から約20%下落しています。ただ、それでもパラジウムの需要は拡大を続けました。この背景には、世界的に広がる環境規制が挙げられます。中国は、2020年7月1日から「国6」と呼ばれる排ガス規制を導入しますが、今年7月1日から上海などの15の都市・省は、これを前倒しで実施しています。また、インドでも2023年から新たな規制が導入される見込みです。排ガス規制に向けて自動車メーカーは技術革新を進めます。ただ、思うような結果が得られず、パラジウムやロジウムといった触媒の使用量を増加することで対応するメーカーも多いようです。このことも、パラジウム需要を拡大させています。

長期的な展開では2000ドル台も視野

 このように、今のパラジウムの上昇にはファンダメンタルズからの理由があります。10年続いた慢性的な供給不足が解消されるには、まだかなりの時間が必要です。冒頭で述べたように、プラチナがパラジウムの半値となっており、水面下ではプラチナをガソリン車の触媒に使おうとする動きも出ているでしょう。ただ、自動車メーカーが部品・素材、そしてラインを変更するとなると、数年の期間が必要です。パラジウム価格は既に歴史的高値圏にあり、今年4月のように1週間で250ドル弱も暴落するような場面もあるでしょう。ただ、そのときの安値から400ドル以上も上昇し、既に年初来高値も更新しています。需給関係をみると、1800ドル台、中国の景気が回復するなら、長期的には2000ドル台も視野に入れた展開となる可能性もありそうです。

※この記事は、FX攻略.com2020年1月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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