米国ではバイデン新政権が誕生し、為替市場はようやく「ポストトランプ」時代に入りました。年初、最も気になる動きは米国の長期金利が1%の大台を回復したこと。金利差拡大でドル高トレンドが復活する可能性があります。従来のドル安トレンドの継続とドル高の萌芽という二兎を追う戦略が必要な今、主要通貨の春相場における売買戦略を考えました。
※この記事は、FX攻略.com2021年4月号(2021年2月20日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
米長期金利上昇でドル高トレンドの芽も。ドル円は今春100円を割り込むか?
新型コロナ感染症は一向に収まる気配がありませんが、2021年の為替相場が始動しました。2月末は通常、3~4月の春相場に向け、年末年始に発生した為替のトレンドがもう一段加速することの多い時期です。2021年でいえば「これまでのドル安トレンドが続く」というのが普通の流れです。
トランプ前大統領の「選挙を盗まれた」キャンペーンの末、ようやく米国大統領に就任したバイデン氏は2兆ドルの大規模な財政出動政策を打ち出しています。巨額の財政出動を行うには、米国債を大量発行して借金する必要があります。米国政府の借金=米国債が大量発行されれば、供給過剰になって価格は下落し、逆に米国債の金利が上昇します。そうした思惑から1月には米国10年債の金利が1%の大台を突破しました。
そのため、従来のトレンドだったドル安から一転、長期金利の高さに注目したドル高トレンドへ反転が起こりそうな気配も出てきました。実際、1月のドル円は米国債の金利高に反応し、一時104円40銭まで買い戻しが進み、2020年12月のレベルまでドル高が進行しました。
2021年の大きな特徴といえそうなのは、ドル円など為替市場が、史上最高値を更新し続ける株価よりも、金利動向により反応する、本来の動きに戻っていく点です。米10年債利回りが1%の大台を突破して大幅上昇したことで、金利高に引っ張られてドルが買い戻される動きが顕著になっています。
その傾向が続くかどうかはまだ判然としません。次なる米長期金利の節目は1.2%台になりますが、その水準は2020年2~3月のコロナショック以前の金利水準になります。
チャート①は2020年1月からの米国10年債の利回りとドル円の為替レートの相関図です。ドル円は米国10年債の利回りが2020年7月に0.5%台で底打ちして以降も、下落傾向が続いてきました。米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年まで現在の大規模な量的緩和策を続け、短期金利の指標になる政策金利が長期にわたってゼロで据え置かれる見通しが、これまでのドル安要因でした。
しかし、米長期金利が一段と上昇したことで、ドル円の先行きにも変化が出てきました。依然としてドル先安観を完全に取り去るわけにはいきませんが、今後1ドル105円台に乗せるようなら、その相場観の修正も迫られると考えます。整理すると、
●バイデン新政権の巨額財政出動や国債を売ってバブル気味の株を買う動きが続けばドル高。
●一方、実体経済のコロナ禍による低迷、落ち込みが続きFRBが追加緩和策を打ち出したり、量的緩和措置のさらなる延長を明確にすれば、ドル安が継続。こちらは株高、にもかかわらずドル安。
この二つの方向性で、ドル円をはじめとした2021年の為替相場は動く、と考えるのが妥当な現状分析といえるでしょう。
ドル円の日足のチャートでは、一目均衡表の雲の上限が104円60~65銭に位置し、105円台乗せは「雲抜け」完成になるので、ドル高に弾みがつく可能性があります。ドルが再び100円を目指すのか、あるいはドル安に終止符を打つのか、今後の春相場はそのいずれかに振れる重要な局面といえます。
いずれにせよ、ドル円を動かすメインのドライバーが株式市場から債券市場へと変わる可能性が高いと私は考えています。
2021年はインフレが台頭する年になる?リスクオンのドル高が復活するかどうかが鍵
チャート②は2019年7月からのドル円週足チャートに、13週、120週、200週移動平均線とストキャスティクスを表示したものです。
ドル円はチャート上に示したように、2020年2~3月のコロナショックによる乱高下以降、狭い下降レンジの中を右肩下がりで推移しています。このレンジの傾きに従って下落し続けた場合、3月には1ドル101円、4月には100円台までレンジ下限が下がる見通しです。つまり、春先にかけて1ドル100円割れを試す局面が来ると考えるのが妥当です。ちょうど13週移動平均線がぴったり上値を抑えつける壁として機能しているのがチャートを見れば一目瞭然です。
とはいえ、ドル円がここから急落して、一気に90円台に突入するシナリオは考えにくいでしょう。なぜなら、今回のドル安トレンドは決して「リスクオフによる円高」ではないことが従来とは異質な点だからです。
コロナ禍で実体経済はいまだボロボロですが、株価は米国を中心に絶好調で推移しています。従来とは真逆とまでは言わないものの、「リスクオンが続く中での円高トレンド」が発生しています。そのため、同じ円高トレンドが進むにしても、その動きはじわじわとゆるやかで、気がついたら1ドル100円を割り込んでいた、といったものになる可能性が高いと思います。
一方、バイデン政権の大規模財政出動やFRBの量的緩和の長期化は、インフレ=物価上昇や米長期金利の上昇をもたらしつつあります。それが歓迎すべき「副作用」かそうではないかはともかく、米長期金利の上昇はドル円が現状の下降トレンドから上昇トレンドへ回帰する可能性につながっています。
下段に示したストキャスティクスはいまだ50以下を右肩下がりに推移していて、下降トレンドが明白です。しかし、ストキャスティクスが売られ過ぎ圏の20前後で2度下げ止まって反転上昇に向かいそうな芽が出ている点は、3~4月にドル円が底打ち反転する前兆シグナルと考えることもできます。
当面は、ゆるやかな下降レンジが続くという判断で、ドル円が104~105円のレンジ上限に達したら売り、というのが春先のドル円トレードの基本スタンスといえるでしょう。しかし、ドル円が急激に下げる可能性もそれほど高くはないので、レンジ下限の101~102円台まで下げたら買いにも挑戦して、上昇・下落両睨みの相場観で臨むのが良い、と思います。
チャート③は2011年以降のドル円月足チャートに120か月線、200か月線、一目の雲を表示したものです。
月足チャート上で見ると、ドル円は103円台に位置する右肩上がりの120か月(10年)線や横ばいの200か月線まで下落しました。120か月線はこれまでもAのゾーンで抵抗帯に、Bのゾーンでは支持帯として機能してきました。そう考えると、現状のドル円が120か月線にサポートされて反転上昇に転じるシナリオも「あり」と考えられます。
下段に示したストキャスティクスはいまだ下落が続き反転上昇の兆しは見えません。ただ、すでに売られ過ぎ圏の20に到達しており、逆張り的な観点からすると、今後は底打ち反転する可能性も考えられます。
むろん、2020年以降のコロナ禍における為替相場では、株価暴落などリスク要因が台頭すると根強いドル現金に対する実需もあってか、「リスクオフなら円安ドル高」の傾向が続いています。
もし3~4月にドル安からドル高トレンドへの反転上昇が起きるとしたら当然ですが、リスクオフの一時的なドル高ではなく、米国経済が世界最悪のコロナ禍から力強い回復を示し、それを見越して米長期金利が上昇するという、持続的なポジティブ要因が必要です。しかも長期国債の利回り上昇は現在、絶好調の株式市場の「大敵」ですから、株価が安定的に上昇しつつ、長期金利もゆるやかに上昇するといった「適温(ゴルディロックス)経済」の継続がドル高トレンドへの転換条件になる、といえるでしょう。
ドル円の考察に時間を割きましたが、その見方はユーロドルなどドルストレート通貨ではみな同じです。
ユーロドルは1.22ドル、豪ドル円は80円台の分水嶺で今後、上下いずれかに大きく動く?
チャート④は2008年7月に1ユーロ1.60ドル台の史上最高値をつけて以降のユーロドルの月足チャートです。このような超長期チャートを掲載したのは、現在、1.20ドルの大台を突破したユーロドルには、2018年2月につけた1.25ドル台を除くと、2014年5月の1.39ドル台や2011年5月の1.49ドル台まで目標となる過去の高値がないからです。
チャートを見ると、ここ12年近く、ユーロドルは1.22~23ドル前後が分水嶺になってきました。同価格帯が2015年までは強力な支持帯、それ以降は強力な抵抗帯として機能しています。現在のユーロドルはまさにこの攻防ラインに到達しており、一目の雲抜けや120か月線超え、MACDの0ライン突破から、長期的な上昇トレンドに入ったように見えます。
ただし、冒頭で述べたような米長期金利の上昇が続き、金利差からドルへの投資妙味が増せば、2015年以降、抵抗帯として機能してきた1.22ドルラインを本格的に突破できず、再び下降トレンドに転換する可能性もあります。ユーロ圏は、ドイツのメルケル首相が2021年秋に政界を引退するなど、コロナ不況やマイナス金利の長期化に加えて、政治的な不安要素を抱えています。そのため、ドル円以上に米長期金利の動向に注意を払って、もしトレンド反転が起こるなら、その流れにも乗りたいところです。
売買戦略としては、一時的なリスクオフで1.15~1.17ドル台まで下落したら上昇トレンド継続を信じて押し目買い。米国長期国債がじわりと上昇を続ける中では、1.23~25ドルあたりで利益確定もしくは様子見の新規売り、でしょうか。
鉄鉱石の価格上昇で投資妙味が増しそうな豪ドル円も見ておきましょう。チャート⑤は2007年10月に107円台の最高値をつけて以降の豪ドル円の長期月足チャートです。ユーロドルに比べると、まだ上がりが弱く、120か月線、一目の雲が上値に立ちはだかり、MACDも0ラインを突破していません。ただ、上記のようなインフレ含みの展開が2021年のメイントレンドになるならば、経済に占める資源の比率が高い豪ドルはさらに評価されてもおかしくありません。
豪ドル円もユーロドル同様、現状の80円台前後が、長期的に見ても強気相場/弱気相場の分水嶺になっています。目標上値は2017年後半に高止まりした88~90円台。そこに到達するためには眼前の雲を突破し、83円台に位置する120か月線を上抜けする必要があります。基本は何らかのリスクオフ要因で75円台前後まで下がったら押し目買いという戦略で臨みたいところです。
「コロナ禍でばたばた人が死んでいるのに、中央銀行がお金をじゃぶじゃぶ刷ることで株価だけが突出して上昇している」のが現在の金融市場の状況です。中央銀行が量的緩和政策をここまで続けてこられたのは、お金をいくら刷ってもインフレが加速したり、株価の大敵といえる長期金利の上昇が抑えられてきたからです。もし、「中央銀行の量的緩和策が物価上昇、金利上昇といった副作用を生む」ことが露呈した場合、「中央銀行信仰」で維持された世界経済はリーマンショック並みの大混乱に陥るでしょう。そうした「危うさ」にも警戒は必要ですが、今のところ、インフレや米国の長期金利の上昇はドル高トレンドへの転換や豪ドルなど資源国通貨高に力を貸す「好材料」になっています。とにかく、2021年は「米長期金利」から目が離せません。その動向に十分注意してFXの戦略を立てましょう!
※この記事は、FX攻略.com2021年4月号(2021年2月20日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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取引ツール | 提供されるPC・スマホ取引ツールの使いやすさ。MT4ができるかどうか。オリジナルの分析ツールの有無。 |
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サポート体制 | サポート内容や対応可能時間の違いをチェック。 |
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