米大統領選をめぐる戦い
執筆現在では米大統領選の真っただ中で、大変なニュースが飛び込んできました。トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染していたというのです。これでますますイレギュラーな米大統領選になりそうですが、今回は米大統領選と相場について書いてみたいと思います。今後のイレギュラーな展開はさて置くとして、まずは米国の大統領選挙がどういう制度なのかをおさらいしてみましょう。
大統領に立候補できるのはどんな人でしょうか? 立候補するための資格を、投票できる権利である選挙権に対して「被選挙権」といいます。米国大統領の被選挙権は35歳以上の米国で生まれた合衆国市民で、14年以上合衆国内に住んでいることが条件になります。
米大統領選は、4年に一度の夏季オリンピックと同じ年に行われます。一般投票日は11月の第1月曜日の翌日です。事前に選挙人登録をした18歳以上の米国人によって投票が行われ、州ごとの勝者を決定します。
米大統領選は、直接選挙ではなくて間接選挙になっています。全米の各州と首都ワシントンにはそれぞれ人口に応じた選挙人が割り当てられています。選挙人の数は全米で538人となっており、ネブラスカ州とメイン州を除いて、各州の投票で1位になった候補者が、その州の選挙人を全て獲得することができる「勝者総取り方式」を採用しています。このような形式で行われるため、米大統領選ではたとえ立候補者が全米の総得票数で上回ったとしても、選挙人の獲得数で負けてしまうという現象がたびたび起こっています。
前回の2016年に行われたトランプ大統領とヒラリー・クリントン候補の争いでは、ヒラリー候補は得票数でトランプ大統領よりも300万票も上回っていました。しかし、トランプ大統領は中西部などの複数の州での得票数が僅差で上回っていた結果、選挙人の獲得数ではトランプ大統領の306人に対してヒラリー候補の選挙人は232人にとどまりました。
2大政党の立候補者と州ごとの支持傾向
米大統領選では2大政党からの立候補者がほとんどで、2大政党以外から立候補するハードルは非常に高くなっています。2大政党以外から立候補する場合には、一定数の有権者による署名が必要なため、事実上は2大政党の戦いといってもいい状態です。
米国における2大政党とは、民主党と共和党です。米国には50の州がありますが、このうち民主党の支持が強い州を「ブルー・ステート(青い州)」、共和党の支持が強い州を「レッド・ステート(赤い州)」と呼びます。それぞれの政党で強い州と弱い州がはっきり分かれているケースが多く、これらの州ではほとんど毎回、支持の強い政党が勝利しています。
一方で、民主党と共和党、どちらに転ぶか分からない州を「スイング・ステート」と呼びます。これがそれぞれの陣営にとって激戦州となり、勝負の分かれ目になります。民主党、共和党それぞれの候補者にとって、各州での選挙活動はもちろん大事ですが、スイング・ステートと呼ばれる激戦州の結果によって勝利が決まるので、この州で積極的に選挙運動をすることが最重要になっています。
それでは、2大政党の支持が強いのはどのような州なのか見ていきましょう。まず、ブルー・ステート(民主党)で圧倒的なのはカリフォルニア州とニューヨーク州です。他には、北部の沿岸地域、5大湖の周辺地域、太平洋側の沿岸地域がブルー・ステートです。それに対して、中西部のほとんどがレッド・ステートになっています。
ここで重要なのは勝者総取り方式の制度上、選挙人の数が多い州を獲得することです。冒頭で書いたように各州の選挙人の数は人口に応じて決まっていますから、人口の多い大きな州で勝利することが重要になるわけです。多数の州で勝利できても選挙人の数が少ない小さな州でしか勝利していないのであれば、大統領に選ばれることはないのです。
では、選挙人が多い州はどの州でしょうか。現在選挙人の多い州は、カリフォルニア州(ブルー)55人、テキサス州(従来はレッドだが今回はスイング)38人、ニューヨーク州(ブルー)29人、フロリダ州(スイング)29人、ペンシルべニア州(スイング)20人、イリノイ州(ブルー)20人、オハイオ州(スイング)18人、ミシガン州(スイング)16人、ジョージア州(スイング)16人、ノースカロライナ州(スイング)15人となっています(画像①参照)。カリフォルニア、ニューヨークの2大州はどう転んでも民主党支持ですが、それ以外の選挙人が多い州のほとんどがスイング・ステートになっていることが分かります。
画像①) https://www3.nhk.or.jp/news/special/presidential-election_2020/basic/system/system_01.html
事前予想ではどちらが優勢か
有名な選挙の予想サイトであるReal Clear Politicsによると、現状の獲得選挙人数の予想では、バイデン候補が226人、トランプ大統領が125人となっています(画像②)。しかし、依然としてスイング・ステートにあたる187人の選挙人の動向は不明なので、ここの得票次第ではどちらに転ぶか全く分からない状態です。
画像②) https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/2020_elections_electoral_college_map.html
画像③) https://projects.fivethirtyeight.com/2020-election-forecast/
同じく選挙の予想で有名な538というサイトでも面白い表を出しています(画像③)。これは選挙の勝利に必要な選挙人の数を獲得するには現状ではどのような状況になっているかという表です。これによるとスイング・ステートでの情勢は、オハイオ州(トランプ49.3%VSバイデン49.7%)、ノースカロライナ州(トランプ49.4%VSバイデン49.9%)、メイン州(トランプ48.9%VSバイデン49.5%)、フロリダ州(トランプ48.8%VSバイデン50.4%)、アリゾナ州(トランプ48.4%VSバイデン50.3%)、ペンシルベニア州(トランプ47.2%VSバイデン52.1%)となっています。いくつかのスイング・ステートの中でトランプ大統領が僅差になっているこれらの州を獲得できれば、再選できる可能性があるのです。
いかがでしょうか? 意外に僅差だと思いませんか? もちろんこれらの州を獲得するのも難しい現状では、バイデン候補が優勢なのは変わりません。しかし、多くの世論調査ではバイデン候補がもっと大差でリードしている結果が出ています。先ほどの政治サイトReal Clear Politicsの世論調査のアベレージでもバイデン候補49.9%、トランプ大統領43.1%となっています。全米の調査では確かに6~10ポイントもの差がついています。
ここまで述べてきたように、重要なのは全米での人気ではなく、スイング・ステートで選挙人をどれだけ獲得できるかです。スイング・ステートでの調査を見ると(あくまで538の調査ですが)その差は0.4%から1.9%とはるかに僅差の戦いになっています。これを見ると本番での結果は予断を許さないのではないかと思われます。
他にも面白い調査があります。それは世論調査ではなく賭けのサイトです。海外では選挙も賭けの対象になり、このサイトではギャンブラーたちがどちらが勝利すると予想しているのかが分かります。こちらもReal Clear Politicsのサイトで見ることができます(画像④)。
画像④) https://www.realclearpolitics.com/elections/betting_odds/2020_president/
これによると、6月まではトランプ大統領が有利でしたが、全米が抗議運動などで騒然とした夏場にはバイデン候補が圧倒的に有利になりました。しかし、治安悪化が激しくなった9月の初めにはほぼ横一線に並んでいます。その後はバイデン候補が有利な状況が続き、9月29日の大統領候補者同士によるテレビ討論を通過してバイデン61.3、トランプ39.3とバイデン候補がまた大きくリードしました。
米大統領選後に相場はどう動くか
ここまでは米国の大統領選挙の仕組みと、その大統領選挙の状況を理解するのに役立つ情報源のお話しをしてきました。ここからは米大統領選の結果から相場がどのように動くかを予想してみたいと思います。
米国の民主党は「大きな政府」を目指すので、所属するバイデン候補の政策も低所得者の減税、高額所得者・大企業への増税を打ち出しています。それ以外にもグリーン・ニューディール政策で環境の保護を進める予定です。上院下院の連邦議会選挙もある中で、金融市場が危惧するのは民主党左派の影響力が政策を左右する事態です。バイデン候補は民主党の中では中道派なので、たとえ増税があったとしても予想の範囲内であれば株式市場は増税のショックを吸収できるのではないかと思います。株価の安定が続けば、為替市場も落ち着き、緩やかなドル安・円安の流れは継続するのではないかと考えられます。
一方で民主党左派の発言力が強くなり、増税や環境問題に過激な政策を取り入れる場合は株式市場が下落する可能性が高いと思われます。その場合はリスクオフの流れとなり、ドル高・円高の流れになると思います。
4年前の米大統領選では、「トランプ氏が大統領になったら株式市場は暴落する」と予想されており、確かに当選確実となると株価は急落して、円高も加速しました。しかし、その後は株価・為替共に反発し株高・円安の流れになりました。金融市場は不確実性を嫌いますから、現職のトランプ大統領の再選がマーケットにとっては一番安心感があります。
テレビ討論会以降、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染など悪いニュースが続きましたが、株価の下落も円高も限定的になっています。これはマーケットが米大統領選に関してあまり材料にしなくなってきたからだと考えています。もちろん、まだまだ不確定な要素はあり、ボラティリティが大きくなる可能性はあります。しかし、現段階では米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ、多くの中央銀行が過去に例のないぐらいの金融緩和を行うと共に、政府の財政出動で経済を支えており、金融市場のボラティリティを抑えています。したがって、金融政策と財政政策のパッケージが続く限りは株高・ドル安・円安の流れは継続するのではないでしょうか。マーケットは米大統領選の予想から再び金融政策と財政政策へと関心を移してきています。
※この記事は、FX攻略.com2020年12月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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