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FX力を鍛える有名人コラム

これからの外国為替場の行方 第126回(月刊FX攻略.com2020年10月号)[田嶋智太郎]

これからの外国為替場の行方 第126回(FX攻略.com2020年10月号)[田嶋智太郎]

コロナ禍で加速する!?悲願の欧州統合への歩み

 奇しくも、新型コロナウイルスの感染拡大が様々な形でかねて必要とされてきた社会の劇的な変容をグローバルに後押しする格好となってきている。それは、このところ話題として取り挙げられることの多いDX(デジタルトランスフォーメーション)の大きな流れといったものが代表するところとなるが、他方で長年の悲願とされてきた欧州統合について、その実現に向けた貴重な一歩がようやく踏み出されるきっかけにもなったことは非常に興味深い。

 既知のとおり、欧州連合(EU)は去る7月21日、コロナ禍からの経済再生を図るため、総額7500億ユーロ規模の復興基金を創設することで合意した。当初、EU首脳らの協議は一部加盟国の抵抗によって難航し、望ましい結論は得られない可能性もあると伝えられていたが、結局は5日間にも及ぶ「マラソン交渉」を経てなんとか最終合意に漕ぎつけた。

 このことは、欧州統合に必要な要件の一つである財政統合への足取りに弾みをつける結果となる可能性があり、とりあえずは欧州安定の重要な後ろ盾となり得るポジティブな材料であるとして、合意の事実が伝わった後の市場は素直にユーロ買いで反応することとなった。

 もともと、復興基金案が早期合意に至るとの市場の期待は非常に(やけに?)強いものがあった。そのため、6月下旬に1.1200ドル処に位置していたユーロドルは復興基金の創設が合意に至るまでの短い期間に1.1500ドル処まで上昇し、さらに7月末には一時1.1900ドル台に乗せるという驚異的な値上がりを見せることとなった(チャート①参照)。

チャート① ユーロドル(週足)2018年01月~

 結果、足下では今まさに上向きの62週移動平均線(62週線)を31週移動平均線(31週線)が上抜けるゴールデン・クロスが示現しようとしている。その意味からすれば、さらに一段の上値余地を探る可能性もないではない。

 ただ、このたびの急上昇でユーロドルは2018年2月高値から今年3月安値までの下げに対する61.8%戻しを達成しており、一つに重要な節目に到達したことに伴って上げ一服となる可能性もある。

 また、このままユーロドルが1.2000ドル台に乗せるような展開となった場合には、さすがにユーロ高の弊害が気に掛かる事態ともなろう。場合により、欧州中央銀行(ECB)が何らかのアクションを起こす可能性もあると見られる。

 ちなみに、7月末にかけてユーロドルが一時1.1909ドルまで駆け上がったところで、2008年7月高値や2014年5月高値、2018年2月高値などを結ぶ長期レジスタンスラインに到達したという事実は、一応頭の片隅に置いておきたい。

 少なくともこれまでは、このレジスタンスが非常に強力に機能してきたということを付記しておくことが必要であろう。

長期では世界的株高に期待。短期ではドル売りにも限界?

 もちろん、このところのユーロドルの上昇に「ドル安」が大きく貢献していることも見逃すことはできない。

 一つには、このところよく耳目に触れる「リスク選好(オン)のドル売り」という流れがあろう。言うまでもなく、このリスク選好の背景には世界的な株高があり、ことに執筆時における米国株の全体的な好調ぶりには目を見張るものがある。

 なかでも米国のIT・ハイテク大手の株価は「少々買われ過ぎ」と思われるほど強い基調を維持しており、7月下旬から8月初旬にかけてはナスダック総合指数やフィラデルフィア半導体株(SOX)指数などが、あらためて過去最高値を更新する動きを目の当たりにしている。

 米国株を強気にさせている要素の一つは、新型コロナウイルスの感染拡大が促す社会の劇的な変容が、米国の「GAFA+M」をはじめとする世界の少なからぬ企業に恩恵をもたらすとの見方が足下で拡がっていることである。まさに「コロナ禍が後押しする」というニュアンスは、前述した欧州の財政統合と似ている。

 実際、コロナ禍に対応すべく世界で拡がるテレワークやビデオ会議、クラウドコンピューティング、オンライン教育・医療などの需要拡大は、足下でデジタル・プラットフォーマーなどと称される企業群のビジネスを着実に拡大させている。

 さらに、社会のデジタル化の進展は世の中に行き交う膨大なデータの通信量や取扱量を急激に増加させており、結果、次世代通信規格「5G」の必要性を高めることを通じて関連の部品・部材を製造する企業などにも恩恵をもたらしている。

 社会の新常態(ニューノーマル)への移行がより本格化するならば、これら関連企業の収益と株価には一段の上値余地が生まれると基本的には長い目で見ておいていいだろう。

 また、このところ新型コロナウイルスワクチンの開発において一段と有望なデータが示されてきているという点も、世界的な株高の一因として軽視できない。

 既知のとおり、7月下旬あたりには英オックスフォード大学と英アストラゼネカ社、米ファイザー社と独バイオNテック(バイオファーマシューティカル・ニュー・テクノロジーズ)社などによる共同開発の成果が伝えられ、これらを株式市場は一様に好感している。

 他に、米モデルナ社のワクチン開発も7月下旬からフェーズⅢ(第3相試験)を開始し、わが国では塩野義製薬が「2021年末までのワクチン生産能力をこれまでの計画の約3倍にあたる年3000万人以上に引き上げる」との方針を示している。

 幾つかの有力候補のうち一つでも二つでも年末ごろまでに実用化のメドがつけば、市場に上場する多くの企業が前提としている「来年以降の収益急回復」が現実となる可能性も高まり、むろんそれは株価にプラスとなる。つまり、やや長期的な視野に立てば、世界経済の本格的な回復や株価の一段の上値余地には追いに期待が持てるということになるだろう。

 とはいえ、目先のことを言えば足下の株価は少々過熱気味と見ることもできなくはない。仮に一時調整の局面を迎えれば、今度は「リスク回避(オフ)のドル買い」へと流れが変わる可能性も大いにあるだろう。要するに、株高・ドル安・ユーロ高も短期的に行き過ぎれば、一旦は株安・ドル高・ユーロ安に転じる可能性もあるということである。

結局のところドル円は上にも下にも動きづらい

 もちろん、米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年末まで実質ゼロ金利政策を継続するとの方向性を当面の政策方針として打ち出している以上は、今しばらく米金利の上値が押さえられた状態は続く。米金利が低水準にとどまったままで、リスク選好のドル売り圧力が強まると、同時に強まるリスク選好の円売りよりもドル売りの方が勝ることとなり、結果的にドル円は下方に向かいやすくなる。

 ただ、市場のリスク選好ムードが色濃いときというのは、ユーロや豪ドルも強含みの展開になりやすく、結果、ユーロ円や豪ドル円などクロス円全般が上値余地を探る展開となることによってドル円の下値は限られがちとなることが多い。

 前回更新分の本欄でも述べた通り、豪ドル円と日経平均株価には正の相関が認められ、双方が強含みとなる局面では市場のムードもリスク選好に傾きやすくなる。それも、結果的にはドル円の下値を支えることとなり、リスク選好の円売り圧力はある程度相殺されることとなる。

 ならば、その逆はどうか。急ピッチで上昇してきた米国株が4-6月期の決算発表一巡で一旦は買い材料出尽くしとなったり、いわゆる夏枯れ相場の様相を呈したりして一旦調整含みとなり、市場全体のムードがリスク回避的になるとする。そうなれば、まずリスク回避のドル買いが復活する可能性は高まるものの、米金利は低いままなのでドル買いの圧力はそのぶん低減する。ここで同時にリスク回避の円買い圧力も強まると、やはりドル円の上値は押さえられがちとなる。

 さらに、市場がリスク回避的になるとユーロ円や豪ドル円も調整含みになりやすく、ますますドル円の上値余地は限られてくる。とどのつまり、現状では株高(リスク選好)でも株安(リスク回避)でも、ドル円の下値と上値は限られるということになってしまうわけである。

経済再開の期待に基づくリスク選好も一時停止?

 これでは、ドル円という通貨ペアに対する市場参加者らの関心が薄れるのも道理であり、当面はユーロドルやユーロ円、豪ドル円などで勝負するFX投資家が増えることとなろう。

 そこで注視しておきたいのは一つに日経平均株価(225)の値動きである。225の週足チャート上に一目均衡表を描画すると、6月の第2週以降はずっと週足「雲」上限に上値を押さえられた格好となっている。結果、そうした点が嫌気されて225は一旦売りという流れになれば、強い正の相関関係にある豪ドル円も弱含みとなる可能性が高い。

チャート② 豪ドル円(週足)2018年01月~

 実際、チャート②に見るように豪ドル円も6月第2週以降は7月第3週まで週足「雲」上限が上値を押さえる格好となっていた。7月下旬から8月初旬にかけては、ようやく「雲」上限を上抜けてきているが、いまだ「強気シグナル点灯」とするまでの力強さは感じられていない。仮に今後、再び週足「雲」を下抜けるような展開となれば、その後は62週移動平均線が位置する水準(執筆時は72.94円処)まで調整する可能性もあると見られる。

 仮に、豪ドルが弱含みに転じれば、同時にユーロ安・ドル高の傾向も強まりやすくなると考えられ、少々オーバースピード気味ながら順調に上値を伸ばしてきたユーロドルも戻り一巡から反落となる可能性がある。

 なお、執筆時においては米中間の対立が再びエスカレートし始めてきており、市場の一部では米国経済の先行き不安も囁かれ始めている。加えて、米国では依然として新型コロナウイルス感染拡大の第2波が猛威を振るっている。

 5月下旬あたりから強まった「経済再開期待でリスク選好」の流れにも、このあたりで一旦ストップがかかりやしないか、慎重に見定めながら相場と向き合うことが肝要となろう。

※この記事は、FX攻略.com2020年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

ABOUT ME
田嶋智太郎
たじま・ともたろう。経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。 慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
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