この国で唯一の月刊FX情報誌を刊行している立場から、多くのトレーダーが犯しやすいミス、失敗、陥りがちな勘違いを抽出し、皆さんと共有していくのが当企画の目的です。今回は「勘違いしがちなテクニカル指標」について考えていきたいと思います。
値動きの加工がテクニカル指標
アンケートやセミナーを見ていると、読者の皆さんにはテクニカル分析がとても人気があります。これはやはり売買ルール、ひいては利益が出そうなトレード手法をイメージしやすいからでしょう。
テクニカル分析の主軸となるのは、移動平均線やRSIのような、テクニカル指標(インジケーター)を用いたチャート分析です。移動平均線同士の交差からトレンド発生タイミングを探す、ゴールデンクロスやデッドクロスを一度は聞いたことがあるでしょう。
さて、これらテクニカル指標ですが、基本的にはそれまでの価格推移を再計算し、分かりやすく表示したものです。いわばチャートを加工したものであり、独立して存在、あるいはチャート上の値動きなしに成り立つものではありません。
テクニカル指標は魔法ではない
ところが、テクニカル指標が発するサインに、あたかも特別な効力があるかのような解釈をされている方が多いのではないでしょうか。例えばゴールデンクロスなら、短期移動平均線(短い期間の平均価格)が、長期移動平均線(長い期間の平均価格)を上回ったタイミングとなります。
このことから、読み取れる情報はたくさんあります。例えば、相場の世界にはパーフェクトオーダーというものがあります。上昇時なら、下から上に向かって、長期→短期と複数の移動平均線が並ぶことで、安定した上昇トレンドであると解釈しますが、ゴールデンクロスはその始まりの形です。
また、短期間の平均価格が長期間のそれより高いということは、過去に買った人より、最近買った人の方が儲かっているわけですから、これもまた価格上昇時に見られる状態です。
ただし、これらはあくまで、その時点までの価格推移をテクニカル指標で視覚化しただけであり、未来に向かって価格が上昇していく根拠には必ずしもなりません。
というか、単純移動平均線が下画像のSMA10とSMA20のような設定なら、価格上昇時にはゴールデンクロスの形になるのが普通です。つまりゴールデンクロスが出たから価格が上昇するのではなく、価格上昇時にゴールデンクロスの形になりやすいのです。
それを見て、投資家が上がると判断して買いが集まれば上昇しますし、それとは逆の結果になることもよくあります。これは実際にゴールデンクロスで売買をしてみれば分かることです。
パラメーター次第でまるで別の形に
さらにほとんどのテクニカル指標には、パラメーター設定があります。単純移動平均線を例にするなら、SMA5(ローソク足5本分の平均)とSMA200(ローソク足200本分の平均価格)では、チャート上に現れる形が全く違います。これはつまり、同じ単純移動平均線でも、パラメーター次第で性質が大きく変わることを意味しています。
そして、価格の変動はその時期により全く違います。動かない時期もあれば、激動の時期もあり、その変動の幅により機能するパラメーターも変化します。これもまた、「テクニカル指標の神聖視」を否定する理由となります。
テクニカル指標の計算式を理解
まとめに入ります。まず、テクニカル指標は価格を加工して視覚化したものに過ぎません。だからこそ、過信してはいけないのと同時に、どのような計算式になっているかを知っておきましょう。
例えばRSIなら、設定期間内の上昇幅の割合を表示するものですから、上の方に張りついた状態から下がってきたら、上昇の力もそろそろ弱まってきたかな、という判断ができます。
テクニカル指標は、過去の値動きを見やすくしただけのものであり、相場を動かす特別な力などないことを、たまにで良いので意識しましょう。相場を動かすのは、個々のトレーダーの行動です。
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より突っ込んでテクニカル指標を考えてみる
ほぼ全てのテクニカル指標はローソク足、価格を加工したもの
単純移動平均線(Simple Moving Average)
ある期間の終値の平均値を線で結んで連続表示したもの
RSI(Relative Strength Index)
ある期間全体の変動幅に対して、上昇した幅の割合
基本的にテクニカル指標とは、価格を再計算して表示したもので、価格推移を連続表示したチャート、ローソク足から独立した存在ではありません。そして、価格を再計算してから表示している関係上、必ずローソク足より反応が遅れます。
【関連記事】
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テクニカル指標のサインに普遍的な優位性はない
ゴールデンクロスの場合
確かなのは「ローソク足過去20本分の平均終値より、ローソク足過去10本分の平均終値が高くなった」ことのみ。
有名な買いサインのゴールデンクロスですが、このサイン自体に魔法のような効力はありません。短期平均価格が長期平均価格を上回ったことは事実ですが、それが必ずしも価格上昇にはつながりません。
テクニカル指標と向き合うための心構え3ヵ条
- テクニカル指標はチャート上の値動きを視覚化したものに過ぎず、過信してはいけない
- テクニカル指標において、ずっと機能し続ける最強のパラメーター設定は存在しない。相場の動きで常に変化する
- テクニカル指標をより活用するため、使用するものがどんな計算で成り立っているかは理解する
テクニカル指標やそこから発せられるサインに相場を動かす力があるわけではなく、現在に至る過去の値動きを分かりやすく表示したものがテクニカル指標です。値動きの分析には有用ですが、これだけで予想は完結しません。
※この記事は、FX攻略.com2017年12月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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