レバレッジの誤解
こんにちは、いいだっち先生です。前回は2~3年勝っていたトレーダーが、その後なぜ消えていくのかをFX相場の歴史的背景から説明しました。たとえ何億と稼いで「億トレーダー」ともてはやされていても、相場から退場してしまっては意味がありません。また、昨今ではさまざまなメディアで脚光を浴びるトレーダーさんが台頭していますが、キャラクター先行が目立ち、トレード理論に疑問を感じることもあります。
FXでは、たまたま手法がそのときの相場にマッチして安定して勝っていける期間があるのです。すると、その後もずっと「このまま自分は勝ち続けていけるだろう」という幻想を抱いてしまいがちです。しかし、相場の大きな転換期が訪れると、その手法は通用しなくなり、「勝っているやり方で負けていく」現象が発生します。そうして今まで多くの有名なトレーダーさんたちが相場の世界から去っていきました。
毎度のことながら、相場の正しい知識や教訓が伝承されず、偏見やうわべだけの知識が残されていくのは非常に残念に思います。
FXの特徴として最たるものが、「レバレッジ」ではないでしょうか? FXのサービスが開始された当初の運用可能なレバレッジは最大200倍でした(現在は25倍)。いいだっち先生がFXを始めたころ、FXを解説するアナリストやコメンテーターがレバレッジの特徴をよくテレビで解説していたのを記憶しています。解説者がレバレッジについて説明するときには、たいてい左記の三つのキーワードを口にします。
①レバレッジはテコの原理
②少ない資金で大きい資金を運用する手段
③レバレッジを多用すれば、それだけ早く資金がなくなる
大体の方が、このような決まり文句で説明しています。皆さんも聞き覚えがあるのではないでしょうか? 個人的に①と②に関しては間違っていないと思いますが、③に関しては異を唱えたいと思います。そもそも、このような間違いがレバレッジに対しての誤解を招き、偏見を生み出しているのではないでしょうか?
レバレッジと証拠金の意味
現在は1000通貨から取引可能なFX会社が増えていますが、FXの開始初期は1万通貨からの取引が標準でした。例えば1ドルが108円だったならば、100ドル分(1万800円)や1000ドル分(10万8000円)でトレードをしようとしてもできません。取引の最小単位が1万通貨なので、取引するならば本来1万ドル(108万円)が必要です。
108万円を実際に納めて取引できる人はよいですが、それだと資金不足で参入できない方もいます。そこで、「全額ではなく取引の収益に問題ない範囲で一部だけ証拠金として納めてくれればOKにしよう」という考え方がFX会社に生まれました。そうすれば投資家の参入障壁が下がり、FX会社は門戸を広げてサービスを提供できるからです。
レバレッジ10倍で本当に10倍早く資金がなくなるのか?
レバレッジを適用すれば、確かに本来必要な108万円よりも少ない資金で1万通貨の取引が可能なので、「テコの原理」という説明は間違っていません。少ない資金で多額の取引が可能という説明も間違いではないでしょう。しかしながら、レバレッジを10倍でトレードした場合、その分早く資金がなくなるのでしょうか?
ドル円の1万通貨取引でレバレッジ10倍ということは、本来必要な証拠金108万円の10分の1=10万8000円で取引できます。これで100pips損失した場合は1万円のマイナスになります。レバレッジを活用しない取引でも1万通貨取引で100pips負けたら損失は同様に1万円になります。つまり、レバレッジを活用してもしなくても損する金額は同じなのです(図①)。
多くの初心者が抱くレバレッジの印象
もちろん、レバレッジを活用した場合の証拠金に対する損失の比率は大きくなります。資金が早くなくなるという説明は間違っていないのですが、説明が足りないため初心者が誤解をしてしまうのです。レバレッジを多用すればそれだけ早く資金がなくなるという説明では、それを聞いた初心者が通常の取引よりも多くの損をしてしまうと受け取る可能性があります。これが「FXはハイリスクハイリターンでギャンブルや博打のようなもの」という誤った印象を多くの方に持たれてしまう原因になります。多くの人にFXの魅力を伝えるためには、FX業界全体でレバレッジや資金管理の啓蒙活動を見直す必要があると思います。
※この記事は、FX攻略.com2020年7月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。