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人工知能と相場とコンピューターと|第5回 日本の登場[奥村尚]

人工知能と相場とコンピューターと|第5回 日本の登場[奥村尚]

金ドル本位制と自由貿易の拡大

 1960年代は、新しい国際経済協力体制が確立し、貿易が世界的に拡大してゆく時代です。為替相場は、米国中心に連合国が決めたブレトンウッズ体制で、各国通貨とドルの交換比率は固定されていました。その上で、決済通貨をドルに決めたわけです。ドルはゴールド(金)と交換できたため、金ドル本位制ともいいます。

 金は埋蔵量が限られています。過去採掘した金は約18万4000トン、これから採掘できる金は約5万6000トンで、合わせて約24万トンしかありません。全て合わせて競技プール5杯分です(田中貴金属調べ)。貿易の増加で外国通貨は流通が増えますが、それに併せて金の流通を増やすことはできません。金の量は増えないのに、貿易量に比例してドルの量は増えるわけです。

 ブレトンウッズ体制は、別名IMF-GATT体制です。米国が経済援助を通じて欧州諸国の復興を徐々に進めたおかげで、1960年には欧州各国の通貨が回復しました。

 モノの購入だけではなく、資本取引における通貨の交換性まで自由化は進んだのです。資本取引とは、株式や社債の発行など、資本金を増減させる取引のことをいいます。要するにマルクベースの国であるドイツ企業の売買を、フランベースであるフランスが行うとき、マルクに換えてフランで決済できる、ということになります。

 その交換レートが、すなわちFXレートになります。このとき、フランスとドイツの金利水準の差に応じて、本来はレートが決まるはずです(金利が高い国の通貨の方が黙っていても金利で増えるので有利)。しかし、レートは固定でした。

 政策的にも、各国がとるマクロ政策で決めた金利水準が、国境を越えた資本取引によって相殺され効果がなくなるという矛盾が生じます。

 金1オンス=35ドルと定めたこの体制は、固定通貨レートという矛盾、米国の国際収支の赤字によるドルの信頼失墜、金の埋蔵量が有限であることなど、数々の矛盾がありました。その解決は、1971年のニクソンショックを待つことになります。

ブレトンウッズ会議が行われたMount Washington Hotel

出典:OMNI HOTELS&RESORTS HP

コンピュータの先祖が登場

 話をコンピュータに移します。1960年代、コンピュータは飛躍的な発展を遂げました。商用での利用が急激に進んだのです。

 トランジスタ化によってコンピュータは小さくなり、処理速度も速くなりました。そして、商用化ニーズの拡大に合致させた画期的なコンピュータが、1964年に登場します。「IBM System/360」です(画像②参照)。次の3要素の点で、優れたものでした。

◦ネットワーク対応

◦シリーズ互換性を持ったアーキテクチャ

◦汎用性を高めるオペレーティングシステム

IBM System/360

出典:IBM HP

 このコンピュータは、現代コンピュータの先祖というわけです。360という数字は、360度あらゆる方面に利用できるという意味が込められていました。事務処理から科学技術計算まで、これ一つで何でもできたのです。

 このシリーズは、目的や予算に合わせて複数の中央演算装置が存在しました。アーキテクチャは同一であり、上位機種と下位機種で互換性を持ちます。どのコンピュータも内部は2進法で動きますが、アドレス指定を8ビット=1バイトで統一し、10進法計算と浮動小数点計算を行えました。それを業界標準にしてしまった、歴史的なシリーズでした。機種を変えてもソフトが使えるというのは、現在のPCでは当たり前ですが、当時としては画期的でした。

 周辺機器も劇的に改善されました。磁気ディスク記憶装置もその一つです。また、磁気ディスクだけではなく、例えばパンチカード読み取り機のように、大量の情報をやりとりする周辺機器との接続のためには、高速なデータ交換を必要とします。そのためのインターフェースであるバスの高速化と、その処理を補助プロセッサに担当させてメインCPUと分離し、メインCPUは計算プログラムに集中するアーキテクチャの導入も既に始まっていました。通信制御装置も専用に備えていました。電話回線を通して通信端末と接続し、遠隔地とのデータ通信を可能にしていました。

 このシリーズは大成功し、1976年には世界市場シェア70%をIBMが占めるに至りました。

ネットワーク化は日本が先駆け

 日本でも、コンピュータの導入は1950年代から始まっていましたが、民間企業で導入されてゆくのは60年代に入ってからです。全てIBM機でした。

◦1961年 八幡製鐵、IBM7070

◦1961年 トヨタ自動車、IBM305

◦1962年 明治生命、IBM1401

 しかし、System/360登場の5年前、世界で初めてコンピュータのネットワーク化の試みに成功したのは日本です。

 記録によると、1959年に日本国有鉄道(国鉄)が東京と大阪に設置したUNIVAC製コンピュータを電話回線で結び、データの送受信に成功しました。国鉄はその技術成果を、貨物列車の編成システムとして稼働し、さらには東海道新幹線の座席予約システムとしてオンラインシステムを完成、1964年に稼働しています。

 その1964年には、東京オリンピックが開催されます。日本IBMがオンラインシステムを構築し競技結果を集計、配信まで担当しました。このとき、まだSystem/360は出荷されていなかったので、その前のモデルである「IBM1410」が8セット使われました。さらに50セットの通信機器(モデム)を用いて600-2400bpsの通信回線で結びました。14セットの高速プリンタもネットワーク化した大がかりなものです。データセンターはオリンピック向けに拡張された国立競技場の1階に置かれ、ここから各国の通信社に配信されました。

改修後の国立競技場(1964年)

出典:独立行政法人日本スポーツ振興センターHP

  電話回線は、音を電気に乗せて通信する技術です。コンピュータのデジタル信号を音に直して伝達する機器がモデムです。FAXも同じ技術ですが、「ピーヒョロヒョロ」という音を聞いたことがある方も多いでしょう。

 最近の携帯電話の通信速度は40Mbpsですから、600bpsモデムの約6万7000倍。5Gともなると、下り4Gbpsですから166万倍の速度となります。時代を感じますね。

東京五輪を契機にハイテク化が進展

東京オリンピック(1964)のシステム構成

 東京オリンピックでは、ハイテクが駆使されました(画像④参照)。陸上競技選手がゴールすると写真判定機のスリットカメラで着順とタイムが記録され、100分の1秒精度で判定ができました。30秒後にテレビでフィルムが放送されます。 3分以内にプリントされ結果が審判に届けられます。競泳ではピストルとタッチボードを接続した自走式判定装置が採用されました。時計はセイコーが担当しました。

 NHKはマイクロ波中継車を使い、マラソンを生中継しました。スローモーションVTR、ヘリコプター用自動追尾アンテナなども開発され、オリンピック初の衛星中継が行われました。このときは白黒放送で、カラー放送されたのは、その次の1968年メキシコオリンピックからです。

 日本IBMが東京オリンピックで培ったノウハウを応用し、世界初の銀行オンラインシステムが1965年に稼働します。三井銀行のオンラインシステムです。他の都銀もこれに追従しました。第一次銀行オンラインと呼ばれますが、本店と支店をネットワークで結び、支店にあるATMで預金を出し入れできるものです。この後、大手証券会社もオンライン化を果たしますが、金融機関のオンライン化は顧客情報オンライン(1970年代・第二次オンライン)、経営情報や営業管理オンライン(1980年代・第三次オンライン)と発展を続けます。

 私が1987年に証券会社に入って着任した最初の部署は、テクノロジーのR&D(研究開発)部門でした。人工知能なども研究していましたが、最初に与えられた仕事は、ライバル他社がどのくらいのコンピュータを何台入れたかを調べ上げて、ライバル一覧表を作るというものでした。コンピュータ化自体が目的化されていたのでしょう。

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第一次AIブームで実現されたこと

 さて、人工知能の世界でも、コンピュータを利用した研究が普及します。当時は、検索技術と推論技術が中心でした。迷路の解答、将棋やチェスでの最適な一手を解明することができるようになっていました。

 とりわけ、目立った成果は二つあります。まずは、自然言語処理でしょう。コンピュータと(英語で)自然会話ができるようになりました。例えば、ジョセフ・ワイゼンバウムが開発した「ELIZA」はリアルな会話ができ、まるで人間と会話しているような錯覚を覚えたそうです。実は、ELIZAは簡単なパターンマッチングで応答しており、会話の内容は処理していません。これを人工無知能といいますが、そんなものでも、例えば今日のボケ防止の会話相手に役立つことが分かっています。

 もう一つ、目標分析も進化しました。迷路検索のように、実際に進み、迷ったら元に戻り、またやり直すという方法では、分岐が大量になり組み合わせ爆発が起こります。その解決には、ヒューリスティックス(経験を基に確率が高そうなものを選択する手法)を用いて、解に到達しそうにない分岐を排除する考え方が編み出されました。

 しかし、当時はルールがあいまいな問題では解決が無理、ルールが厳密なチェスでもレベルの高い推論は無理、というレベルでした。この時代の人工知能は、おもちゃ問題(toy problem)と呼ばれ、第一次AIブームは1960年代で終わってしまいます。

宇宙開発とコンピュータ

 1960年代といえば、宇宙開発が本格的になってきた時期です。とりわけ、1961年から11年間にわたって実施された、全6回の有人月面着陸は人類史の中でも突出した成果でしょう。1969年7月の月面上陸はテレビで生中継され、5億人が見たとされています。

 宇宙開発の中で、コンピュータの正確な処理が果たす役割は重要です。打ち上げ前の膨大な整備の自動化、打ち上げ時の誘導システムの制御、再突入時のコースの算出と姿勢の制御、そして通信システムなどです。米航空宇宙局(NASA)では地上のコンピュータを使わずに極力アポロ側に搭載し、全てを宇宙船で行えることを計画していたそうですが、最終的には、月軌道に入る逆噴射まで地上のコンピュータで処理し、それを宇宙船に送信することになりました。結局、もっぱら地上からの助けなしで安全に地球に戻るための自律性だけを宇宙船に搭載したようです(画像⑤参照)。

NASAデータセンターRTCC(ワシントンDC)におけるIBM704コンピュータ

出典:IBM photo

 開発の中心的な組織はNASAです。集積回路(IC)は1960年から試作されていましたが、1963年までは米国で生産されたICの60%はNASAに納品され、アポロ計画のプロトタイピングのために消費されたようです。

 宇宙開発がもたらした技術成果は大きく、ICの製造コスト、システムの二重化技術、マグネシウムなどの新素材、データセンターにおけるコンピュータ通信システムの運営ノウハウなどは、その後の米国(および世界)の発展に大きく貢献しました。

※この記事は、FX攻略.com2020年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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